◆企画展「未知の生物資源 冬虫夏草の世界」の開催にあたって

鈴木 三男

東北大学総合学術博物館 館長
東北大学大学院生命科学研究科
生態システム生命科学専攻
植物構造機能進化講座教授

写真:鈴木三男

ごあいさつ

東北大学総合学術博物館では,東北大学が所蔵する学術資料標本(学術コレクション)がどのように学術研究に用いられてきたか,また,学術資源としてどのような可能性を秘めているかを広く皆様に知っていただき,さらに,研究研究以外にも活用していただければと,昨年度より「東北大学総合学術博物館のすべて」と題した企画展を開催してまいりました。今回はその第2弾として,「矢萩・冬虫夏草コレクション」に焦点をあて,企画展「未知の生物資源 冬虫夏草の世界」を開催いたします。
「冬虫夏草」は,冬から夏にかけて虫が草へと変態する珍奇な現象として古くから注目を集め,滋養強壮,鎮静,鎮痰に効果がある漢方薬として珍重されてきました。また,最近の科学からみても「冬虫夏草」は「不思議な現象」に満ちており,未だ解明されていないナゾに,多くの研究者の関心が集まっています。冬虫夏草は「冬虫夏草菌」が昆虫に寄生した“きのこ”ですが,特定の昆虫に特定の菌類だけが寄生するいちじるしい「寄主特異性」で知られています。そのため,昆虫と菌類との関係,とくに,昆虫の生体防御機構や菌類が防御機構をうち破る仕組みを研究する上で優れたモデルとして注目を集めています。また,古くから知られる漢方薬「冬虫夏草」の薬用成分を明らかにし,安全で安定した薬効をもつ新薬の研究開発も進められています。
本企画展では,長らく東北大学大学院薬学研究科附属薬用植物園において「冬虫夏草」の研究に関わってこられた矢萩信夫氏から寄贈される「冬虫夏草」標本を中心に,標本スケッチ画や生態写真などの関連資料もあわせて展示し,「冬虫夏草」をめぐる最近の研究を紹介します。普段あまり目にすることのない,「菌類」と「昆虫」の不思議な世界にふれる機会となれば幸いです。
企画開催にあたり,貴重な資料標本の出品をご快諾くださいました皆様,ご協力をいただきました各位に厚く御礼申し上げます。

2004年10月
東北大学総合学術博物館
館長 鈴木 三男

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